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異変  1

 投稿者:jerky  投稿日:2009年 4月20日(月)05時45分9秒
  走っていた。必死で走っていた。
前方は見渡す限り草原で、家や大きな木の1本も見当たらない。
これでは隠れる事も出来ない。逃げる方向を間違えたか。

振り返ると、林の中から黒い鎧をまとった軍団が規律正しく歩いてくるのが見える。
金属で出来ている鎧や兜から時折反射光が眼を貫く。
そして聞こえてくる足音。ほぼ完全に一つの音、ではあるが、地響きのように重厚な音が腹の底に響き渡る。

引き攣りそうな足をもがかせ、上がる息を抑える事も出来ないまま走り続ける。
その間も黒色の軍団は近づいてくる。
剣や槍を持っているもの、軍旗を持っているもの、行進用の太鼓をもっているものまで、
一体何人いるのか、振り返る視界には軍団しかもう見る事が出来ない。
こんなにも必死で走り続けているのに、鎧の軍団との距離は縮まっているように感じた。
足音が大きくなる。太鼓の音が近づいてくる。鎧や兜が擦れ合う音、もう奴らの息遣いまで聞こえてきそうだ。

ドンッ!
ドンッ!
ドンッドンッドンッドンッ!

捕まる!
恐怖に慄き目を固く瞑った。

目を開くと、ベッドの上だった。

サカモトは自分が今どこにいるのかを把握するまで、荒い息を何度かついた。
夢と理解した時、階下から音が響いてくる。誰かがドアを叩いているようだ。
体を起こし、時計を見る。いつも起床する時間より、数時間も早かった。
「ったく、そんな叩かなくても・・・」
明らかに悪夢の原因であったドアをたたく音に愚痴をもらしながら、ズルズルと階段を降りる。

ドアに近づくにつれ、それを叩いているのが女性だとわかった。
よくもまぁ、飽きもせず叩けるよな・・・・。そんな事を考えながらドアに手をかける。
「はいはいっ!・・今開けますよぉ!!」
ノブを回した矢先に、勢いよくドアは押しあけられた。
「あん・・・主人、主人は?!」
恰幅の良い女性がドカドカと室内(とは言っても1階は酒場だが)に入って来た。
ドアに押し倒されそうになったのと、女性の態度のおかしさにサカモトは暫く呆然となった。

「・・・・あ、キノシタさんの・・・・」
そう言ったところで声をかけた女性と目が合った。
「あ・・・・朝からごめんなさいね。ね、うちの主人ここに泊ってるでしょ?」
「・・・へ?・・・いえ・・・?」
「嘘。昨日はここで飲んでたのも知ってるし、最後までいたってヨシカワさんに聞いたんだから。仕事に行かなかったなんて今までなかったのに・・・」
上にいるの?と中に進もうとするキノシタの奥さんを何とか止め、昨日、キノシタ自身が帰るまでの顛末を聞かせた。
奥さんから話を聞くと、昨日キノシタは帰って居なかったらしい。いつもは奥さんが先に起きて、朝食と弁当を作る。それからキノシタを起こす。だが、今朝はベッドは空で、家にいる気配もない。キノシタはごくたまにだが、仕事が溜まっている時には、夜中から作業場に籠る事もあり、それかも、と合点した。

奥さんは朝食をバスケットに詰め、弁当と一緒に職場に向かった。だが、そこにもキノシタの姿はなかった。
昨日の夕食後に酒場に行くと出て行ったので、ここで寝こけてしまっているんだろうと思い、酒場のドアを叩いたんだそうだ。
サカモトは、少し迷惑そうな顔をして、
「・・・昨日は、ちょっとふらついてましたけど、いつもよりしっかりと歩いてましたし、何より、流石に朝までそのままにする事もないですから」
「そりゃそうね。でも、じゃぁうちの主人、どこにいったのかしら?」
そうは言われても、店から送り出した所までしか見ていないサカモトには答えられなかった。
「うぅん・・・・。どこか、立ち寄りそうな所はないですか?ほら、仕事仲間の家とか、森とか、道具屋とか」
「あ、そうね。てっきりここに居るとばかり思ってたから。じゃ、ちょっと聞いてくるわ。ホント、ごめんなさいね。うちの主人が迷惑掛けて」
今、迷惑かけてるのはアンタだよ。とは言えないわけで、流石にサカモトも自重した。
「仕事をするにはまだ早いですし、私は詰所に聞きに行ってきます。何か知ってるかも知れないし」
キノシタが村を出ようとすれば、南北の詰所を通るか、身の丈以上の柵を登らなければならない。柵は魔法加工のせいでよじ登るのはほぼ不可能になっているから、おそらくどちらかの詰所で寝てるのだろう。
キノシタは、友人達の家を訪ねた後で北の詰所に来てほしいと奥さんに伝えた。そして、奥さんをさっさと送り出し、支度に取り掛かった。
 
 

月夜

 投稿者:jerky  投稿日:2009年 4月15日(水)15時10分16秒
  「毎度、ありがとうございます」
最後の一組を送り出して、テーブルの片づけをする。
残っているのは、カウンターの奥で鼾をかいて眠っている男が一人だけ。
店主のサカモトは特に気にするでもなく、片づけを行っていく。
洗い物をする時に、男の周りにある、皿やジョッキを一緒に下げ、それも洗う。
テーブルや椅子も片づけていく。伸曜日の閉店間際なので、これ以上客が来る事はないから店内から片付けだす。
この間も男は赤い顔で眠り続けている。
暖簾を中にしまい、自分用ともう一杯のコーヒーを用意する。
酒や焼き物の臭いが充満している店内を、コーヒー独特の香りが占領していく。
ドリップし終えたコーヒーを2つのカップに注ぐ。
そこで、サカモトは眠り続けている男を揺り起こす。
「キノシタさん、キノシタさん、もう閉店しましたよ」
何度か呼びかけると、一度だけ体を震わして細い眼を開ける。
そのまま椅子の上で伸びをして、あたりをゆっくり見まわす。
「ん、あぁ、そんな時間か・・・」
あくびを一つしながら首を回す。
「コーヒーですよ」
キノシタの前にカップを差し出す。
「今日のは、イオ産の豆ですよ。結構渋みがあるから、目も覚めますよ」
そう言いながら一口含み、軽い溜息をつく。
サカモトは仕事を終えるといつも店内でコーヒーを飲む。そして週に2,3度は
キノシタとこうして仕事上がりのひと時を過ごす。
「すまんね、いつも」
と無精に伸びた顎鬚を触りながらコーヒーに手を伸ばす。
「それにしても、」
温かい液体が胃に届くのを感じながら、キノシタは辺りを見回し
「テーブルとか、カウンターも良い色になってきたな」
サカモトも辺りを見回し、「そうですね」と同意する。
「でも、調理場の棚は油汚れが染み込んできてますけどね」
「じゃぁ、そろそろ新調するかい?」
サカモトは少し考えながら、
「・・・でも、まだどこも壊れてないんですよ。流石です。この店を出す時にキノシタさんに相談しててよかったですよ。城下町の友人なんかは、5年で3度新調してますから」
キノシタは鼻で笑いながら、コーヒーを啜る。
「当たり前よ。城下町の職人達には、〈木の声〉ってのが聞こえないんだよ。ただでさえ魔法機で加工する事ばっかり考えて、肝心の耐久性とかは二の次だからな。時間はかかっても、丁寧に仕事をこなす。これが一番いいんだよ」
と、残りのコーヒーを飲み干した。
「ま、明日また見にくるよ。前に頼まれたテーブルの図面も出来たし、素材も集まったから、それを見せるついでにカウンターの中もチェックするよ。明日は夕方からか?」
「いえ、明日は起曜日ですから、配達がいくつかあるぐらいですよ」
それを聞きながら、お金を出し、帰り支度をする。
「それなら、夕方頃にまた来るわ」
御馳走様とドアに手をかける。
「あ、今日のコーヒー、なかなか美味かったぜ」
「あれは私の趣味ですからね。またいいのがあったら用意しますよ」
軽く笑いながら答える。
「メニューにすりゃいいのに」
「そうしたら、私の分が無くなります」
キノシタは笑いながら店をあとにした。満月の淡い光で辺りは青白く、その中を歩くキノシタは水の中を歩いているようだった。
サカモトはコーヒーカップを片づけ、売上の確認を行った。
 

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