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読書 あれこれ その242

 投稿者:蘇る青春  投稿日:2018年 1月18日(木)16時41分22秒
返信・引用
      「ゆるい生活」  群 ようこ著
    「胃が冷えると余分な水分が上に上がりやすいんです。人間の体は皮袋ですから、その中のそこかしこに余分
   な水分は溜まるんですね。重力があるから下半身がむくむのはわかりますが、それが上半身にまで及ぶのは、ど

   れだけその人にふさわしくない分量の水分が溜まっているかという証拠ですね。その余分な水分が頭のほうまで
   上がって、めまいを起こしたんです」
   聞いていて恐ろしくなってきた。私の身体は余分な水だらけだった。一人暮らしをはじめてから三十年以上、そ
   れなりに食事には気をつけていた。

   どんな元気な人であっても、気をつけたほうがいい期間が、年に四回あるという。「夏の土用は『土用の鰻』で、
   知っている人が多いでしょうけど、土用は年に四回あるんです。暦を見るとわかるんですが、一月、四月、七月、
   十月の土用の入りの日から、立春、立夏、立秋、立冬までの十八日ほどの期間で昔は農作業や土木関係の仕事は
   やめたというくらい、体を休める大事な期間なんですよ」

   私の体調が悪くなった元凶は甘い物だ。若い頃はまだ代謝が上がっているからよかったが、加齢と共に体が冷え、
   代謝が落ちてきて、体調不良に陥った。
   「とにかく最初は、薬を効かせるために、甘い物は厳禁ですよ」先生にいい渡されてから、正直いって地獄の
   日々だった。最初はすぐに治したい一心なので、歯をくいしばって甘い物を耐えていたが、胃を温めて水を抜く
   薬が効いてきて、めまいが改善されてきたときが、いちばん困った。

   「週に一度、リンパの流れをよくしていれば、それほどひどいことにはならないですよ」先生は「やっちまった
   感」を漂わせている私を慰めてくれる。よろしくないものがたくさん溜まっていたデコルテ部分をたまにマッサージ
   されると、ちょっと痛い。でもすぐに痛みが消えるのは、以前とは大違いである。
   「あ、もう痛くなくなりましたね。よく流れるようになりました」激痛に襲われるのもそれが消え去るのも、当然
   、私は自覚するのだが、先生は指先、それも衣服の上からさすっているだけでわかる。それも私が、痛くなくなっ
   たと感じたのと同時なのが不思議でならない。

   甘い物への我慢で身悶え、週に一度、リンパマッサージに悲鳴をあげるのに耐え続け、胃を温める漢方薬を飲み
   続けた、私の丸四年の結果は、当初の五十三キロの体重から、四十八キロになり、そして今は四十五、六キロと
   いうところだ。これだけ減ったのだから、元の体重にまでとはいわないが、五十キロくらいまでなら、物を食べ
   ても大丈夫なのかと期待していたが、体重が二キロ増えただけでも、体調がいまひとつになる。まず顔がむくん
   だ感じになるし体も重い。

   「人間の体は耐用年数が五十年くらいですからね。それ以降は食事などの毎日の生活習慣に注意するなり、第三
   の力を借りていかないと、維持するのが難しくなりますよね」私は今年、暦が一巡りしてしまったので、より気
   をつけなくてはいけない。昔に比べて日本人も長命になったけれど、還暦以降、命をいただいているのは儲けも
   のだと考えて、いつ何時、何があっても仕方がないと思っている。現代の平均だと、人の手を借りないで自由に
   行動できる健康年齢は、男性のほうが少し早いけれど、男女とも七十代の半ばくらいだと聞いた。
   それから平均寿命までのほぼ十年間は、日常的に何かしら人のお世話になる必要が出てくる。健康年齢を超える
   と、一段階、老化に近づくということなのだろう。

   日に三回、胃を温める「人参湯」を服用し、甘い物を食べたときは「呉茱萸湯(ごしゅゆとう)」、食べ過ぎて
   水分を排出したいときは「半夏瀉心湯」、単純に胃の動きが悪いと感じたら「六君子湯」を服用しておく。明日、
   不快な気分にならないための用心である。

http://   「死はこわくない」   立花 隆著

 
 

「えべっさん」て誰?

 投稿者:カーヤン  投稿日:2018年 1月 9日(火)22時29分40秒
返信・引用
  今日は、宵戎ですね。この時期になると、父親に連れられお参りにいったことを思い出します。
子供の頃の目当ては、のし飴で、母親が2Cm程の長さに切って与えてくれました。
さて、「えべっさん」とはどんな神か?不思議に思い調べてみたところ、
なんと「えべっさん」は2種類あることが分かりました。今宮戎神社は「事代主命」、
西宮戎神社は「蛭児命」で、子供の頃お参りに行った吉田にある東の宮恵比寿神社の
「えべっさん」は「事代主命」でした。「事代主命」は、「大国主命」と世界遺産に
登録された宗像神社に祭られる「多紀理姫」との間に生まれた長男で、
宮中神殿、八坂神社、諏訪大社などに祭られているスーパースターですが、他方の「蛭児命」は
「伊弉諾命」と「伊弉冉尊」の第一子であったが、不具であったため葦の船に乗せられ流された
命です。さて皆さん、今宮戎、それとも西宮戎のどちらにお参りします?
それにしても、この神々がどうして商売繁盛の御利益があるのか分かりません????




 

読書 あれこれ その241

 投稿者:蘇る青春  投稿日:2018年 1月 5日(金)12時05分23秒
返信・引用
          「建築家、走る」  隈 研吾著
   ○利用される「隈研吾」ブランド
    東京ミッドタウンの中に「サントリー美術館」(2007年)と、南青山にある「根津美術館」(2009年)と
    いう、東京の二つのベンチマークをぼくが設計したことが理由です。
    だからといって、「中国人は、ぼくのデザインのファンなんだ」という甘い気持ちでいては、彼らとは仕事
    はできません。中国のデベロッパーにとって大事なのは、「東京でこういう美術館を設計した人物がやりま
    す」というブランドだけで、ぼくという個人には何の思い入れも愛情もないところから、すべてが始まりま
    す。行政に提出する書面に、ぼくというブランドネームを書けば許可が下りやすいから、「隈研吾」を起用
    するだけです。そういう構図を認識した上で、自分ができることを分析する冷静さがなければダメなんです。
   ○ぼくだって、田舎の人間なんだ
    韓国は日本企業にとって真の脅威だと思います。ここのところ、特に彼らの持っているグローバリゼーション
    のDNAが、経済危機を乗り越えた後に自信を得て、一挙に加速した印象があります。韓国のクライアント
    の自信と志の高さを前にすると、「ああ、ぼくって日本という田舎の人間なんだな」とさびしい気持ちにな
    りますから。
   ○世界でも希有(けう)な歌舞伎ワールド
    ぼくは祝祭空間としての歌舞伎座を再生させたかったのです。それは先代の様式を踏襲すればいい、というほ
    ど簡単な話ではありません。先代から艶っぽさと官能性を受け継ぎ、かつ平安時代のプロジェクト・スキーム
    に合致する採算性や効率性も実現しなければならない難問です。
   ○住宅ローンという”世紀の発明”
    アメリカは、都市の外にある緑を切り開き、その郊外という新しい場所に家をどんどん建てて、大衆が家を
    所有できるようにしたのです。そのときに一緒に編み出されたシステムが、住宅ローンでした。郊外の持ち家
    +住宅ローンという政策は、社会の推進力となって、建築産業はもちろんのこと、自動車産業、電気産業、
    金融業、製造業と、あらゆる業界を活性化させました。「郊外の持ち家を手に入れた、保守的な核家族が、
    緑の芝生の上でハッピーに暮らす」というアメリカ文化がこれによって確立し、このライフスタイルの発明
    で、アメリカ経済はヨーロッパ経済を抜き去ることになりました。
   ○やがてライトの建築につながる
    ライトの軽く透明な建築は、ヨーロッパの建築家たちに衝撃を与え、そこから刺激を受けたコルビュジエや
    ミース・ファン・ローエらが20世紀のモダニズムをリードしました。世界の建築を変えた現象のルーツをた
    どれば、平等院鳳凰堂があり、日本、アメリカ、ヨーロッパと国境を越えた文化の交流が、歴史の底に横た
    わっていることがわかります。この歴史について、日本人はもっと誇りを持っていいと思います。
   ○死を忘れたい都市
    強く合理的な建築は、都市の水際にまで敷地を求め、拡張を続けました。強く合理的な建築を建て続けるた
    めには、原子力発電所も必要でした。その果てに、大地震が起こり、津波が我々を襲ったのです。しかし、強
    かったはずのコンクリートと鉄の建築は、「3・11」の前には、ひとたまりもありませんでした。さらに
    放射能を前にしては、まったくの無力でした。
    ぼくたちが経験した3・11は、リスボン地震後の「近代建築」の無力というものを決定的にさらけ出したと
    思います。防潮堤やコンクリートの埋め立て、護岸など、「強い」建築をそこら中に建てることで、災害から
    人間を守ろうとする建築依存型の思考回路が役に立たないことを、ついにぼくたちは知ってしまったのです。




http://   「死はこわくない」   立花 隆著

 

初鏡

 投稿者:カーヤン  投稿日:2018年 1月 3日(水)21時58分10秒
返信・引用
  最近、耳が遠くなったせいだと思うのですが、今まで以上に集中力を高めて人の云うことを聞くようになり「言葉」に敏感になっています。昨日、孫を送っていく車中でラジオを聞き流していたところ、今まで聞いたことがない「初鏡」という言葉に出会い、気になって検索したところ年の初めに鏡に向かって化粧する意味とあり、初化粧と同じ意味で、俳句の季語だそうです。この季語を使った句を調べてみると「七十路の淡き紅差す初鏡」というのがありました。川柳の「若作り席を譲られ無駄を知る」より色気がありますね。
我が家の場合、「孫が来て2日遅れの初鏡」1日~2日娘一家がやってきて今日の初詣でまともな化粧ができたようです。
 

2018 お正月

 投稿者:いち  投稿日:2018年 1月 1日(月)21時53分5秒
返信・引用
  今年もよろしくお願いします


 

よむぎ餅、よもぎ餅

 投稿者:カーヤン  投稿日:2017年12月31日(日)21時22分22秒
返信・引用
  先日、年末の墓参りに帰郷しました。
帰りがけに宮小学校の裏にあるエバーグリーンに立ち寄って「よむぎ餅」を買って帰りました。
母親が「よむぎ餅」と言っていたし、買った餅の値札に「よむぎ餅」と書いてあったのでこの
呼称に疑いを持っていなかったのですが、家内がもしかしたら、正しくは「よもぎ餅」ではな
いかというので、調べてみると、どうやら標準語では「よもぎ餅」のようです。
隠れた和歌山弁を発見しましたが、我が家では、あくまで「よむぎ餅」です。
くだらないこと投稿するなといわれそうですが、すんません!
 

読書 あれこれ その240

 投稿者:蘇る青春  投稿日:2017年12月28日(木)15時41分19秒
返信・引用
         「夜も昼も」  鎌田 敏夫著
    「自分の胸に聞けば、そのくらいのこと分かるやろうが!あっちにもこっちにも、女を作って、あっちからも
   こっちからも、電話がかかってきて・・・・。お前みたいなアホンダラと付き合うた、こっちが悪かったんや。
   どいてんか、このチャンネル男!」
   慶子は、しゃべりまくると、正道を突きのけるようにして、マンションを出ていった。

   「一年間、他の女と付き合わなかったら、もう一度、おれと付き合ってくれるか?」
   「どうして、私と、そんなに付き合いたいの。他の女の人いるでしょ。魅力的な女の人が、いっぱい」・・・・
   正道が女を絶っているという噂は、局内にも広まった。その理由は、正道以外には、誠と慶子しか知らないこと
   だったが、噂を聞いて、わざと美人を紹介しようという悪い同僚も出てくる。

   誰ともデイトをしないと慶子と約束してから、明日で丸一年なのだ。正道にとっては、待ちに待った日で、つい
   この間までは、一日一日と日を数えていたのに、お化けの出現で、すっかり忘れてしまっていた。・・・・
   結局、慶子に、お化けの存在を確認させることは出来なかった。慶子は、正道が何かをごまかそうとしていると、
   ますます確信したらしく、正道にショックを与えるようなことを言って、帰っていった。

   美由紀ちゃんをデイトに誘ったのは、慶子と会えないことの寂しさからである。それが、こんな形で、慶子と
   の別れに関わってくるとは思わなかった。美由紀ちゃんは、単に正道をからかっただけなのに、それを弁解した
   ところで、どうしようもないところまで、正道と慶子は、きてしまっていた。

   「おれなんかより、もっと幸せにしてくれる人間が、慶子には必ず出てくる・・・慶子は、そういう女だよ。今
   は、おれのことが忘れられないかもしれないけれど、時間がたてば、すぐに忘れる、・・・それが、慶子にとって
   一番いいことなんだよ」
   「要するに、あなたは、そのくらい、あの女に惚れちゃったのよ」「おまえ、どうして、おれの気持ちが分かる
   だ」「分かるわよ」「どうして、?」
   亜由子(=お化け)は、正道の顔を見つめた。正道は、最初に正道の部屋に現われた時に比べて、亜由子の顔が
   ずっと柔らかくなっていることに、改めて気付いた。・・・・・
   「信じるのなら、そこから飛んで」亜由子は、もう一度ぐるりと回って見せた。
   正道は、完全に亜由子を信じたわけではなかった。でも、信じようと思った。
   正道は、光に包まれて飛んでいった。飛んでいるという意識も、いつのまにかなくなっていた。どこかに向かって
   いる、そう思ったが、ただ光の中に浮かんでいるだけのような気もしていた。

   「死後の世界をいやなものだと、みんな思いすぎるのよ。・・・・寿命がつきて、人は死んでいく。でも、それ
   は、みんなが思っているほど、悲しいことじゃないのよ。つらいことでもないのよ」
   亜由子の言葉が、やさしく聞こえていた。・・・・・
   その瞬間、腕の中に、確かな存在を感じた。腕が誰かを抱いている、そう思った。女の体だった。緊張しきった
   女の体を抱いて、正道は、都会の夜の空を飛んでいた。「慶子?!」正道と一緒に飛んでいるのは、慶子だった。
   「正道さん!」力いっぱいしがみついて、慶子も、初めて正道の名前をよんだ。
       「飛んでるんだよ、おれと一緒に」・・・・・

http://   「死はこわくない」   立花 隆著

 

読書 あれこれ その239

 投稿者:蘇る青春  投稿日:2017年12月21日(木)21時22分41秒
返信・引用
                 「沈黙の町で」  奥田 英朗著
   現場に立った。「おい」と声をかけながら、生徒の顔をのぞき込む。名倉祐一だった。目を閉じている。顔に色
  はない。飯島はしゃがみ込んで生徒の体を揺すった。まったく反応はなかった。
  側溝にはどす黒い血が溜まっていた。しかも凝固しかけている。だいぶ時間が経ったということか。腕を取り、脈
  を確認しようとしたが、すでに冷たくて無駄とわかった。死んでいる―――。

  名倉祐一がいつも行動を共にするグループのメンバーは、ゆうべのうちに割り出してあった。本人の所有している
  携帯電話を家族から提出してもらい、通話記録を見たら一目瞭然だった。名倉に指令を出す生徒は四人いた。クラ
  スメートの金子修斗と藤田一輝、テニス部の二年生、坂井瑛介と市川健太だ。

  ここへ来て、警察の考えていることがおおよそわかった。彼らは名倉祐一の転落を事故だとは思っていない。坂井
  たちが、部室棟の屋根から銀杏の木に飛び移ることを強要し、気の弱い名倉がそれに従い、失敗し、落ちて死んだ
  と踏んでいる。果たしてこれがどういう罪になるのか、飯島に法知識はないが、無罪というわけにはいかないであ
  ろうことは容易に想像できた。今適用されている傷害罪は、俗にいう別件逮捕だ。

  テニス部の仲間と家に遊びに行くと、驚くほど大きな屋敷だった。そしてお手伝いさんが出て来て、「坊ちゃま」
  と呼んだ。人をからかうことが大好きな中学生が、これに飛びつかないわけがない。名倉には以後「坊ちゃま」と
  いう呼び名が定着し、気に食わないときは「ちゃま夫」とか「ちゃま子」と呼んだ。

  この日は午後、中学校から校長と教頭が訪れる予定だった。傷害容疑で逮捕補導された四人の生徒はあっさりと
  釈放され、何事もなかったかのように学校に戻っていた。警察は引き続き捜査をしているとのことだが、経過報告
  はない。
  名倉祐一の悪口は、女子の間でも飛び交っていた。せっかくの楽しいキャンプを、後味の悪いものにした張本人だ
  から、同情の余地はない。それも、見つかった者が罪を被るという取り決めを破って、運動部のみんなでテントを
  抜け出したことを先生に告げ口をしたのだ。

  名倉の背中に四つの赤い跡が就いた。明日になればもっとどす黒くなるのであろう。
  「よし、着替えて帰ろうぜ」健太が立ち上がる。「たまには銀杏の木を伝って下りるか」
  瑛介も続いた。大きいから枝がゆさゆさと揺れた。藤田と金子も飛び移った。普段はあんまりやらない二人だが、
  女子がいるから強がって飛んだのだろう。
  屋根の上に名倉一人が取り残された。青白い顔で地面を見下ろしている。「早く飛べよ」藤田がせっついた。
     「やめとく」消え入りそうな声で言った。「根性ねえなあ、はははは」
  藤田と金子がここぞとばかりに、高笑いした。女子まで一緒になって笑っていた。・・・・・
  名倉は部活が終わると使い走りをさせられていた。学校近くのコンビニでスポーツドリンクを何人分か買ってくる
  のだ。見た感じでは、奢(おご)らされている様子だ。普通、中学生は喉が渇けば水道水の水を飲む。自分の小遣い
  ならそんなものには使わない。
  これに関しての首謀者は藤田に見えた。「ポカリよろしくう」と、うれしそうに毎日命令している。藤田は、自分が
  小学生時代にいじめられた経験があるため、そのときの恨みを晴らしているのだろうか。藤田が気の弱い男子だとい
  うことは、女子はみんな知っている。

  部室で荷物を整理していたら、藤田と金子と名倉の三人が連れ立ってやって来た。「おい健太。今日、ちゃま夫が
  飛ぶってよ」藤田が嬉しそうに言う。「ほんとかよ」健太は鼻で笑って返した。どうせいつもの強がりで、いざと
  なったら尻込みして、やめるに決まっている。・・・・・
  「藤田、どうした」「別にどうもしないけど」普通の受け答えだが、目が泳いでいた。
  「枝に飛び移り損ねて、コンクリートの側溝に頭打ち付けて―――」健太は頭が真っ白になった。何も考えられない。
  「なあ、健太。おれもおまえらと一緒に校門を出たことにしてくれ。このままだと、おれ、疑われちゃうだろう」
  藤田がまくしたてた。
  「飛んだのはあいつの意思じゃん。だから、おれは無罪じゃん。でも最後は二人きりになってるし、だから、どう
  いうふうにでも疑えるし、おれ、犯人にされちゃうんじゃないかって」・・・・・

http://   「死はこわくない」   立花 隆著

 

読書 あれこれ その238

 投稿者:蘇る青春  投稿日:2017年11月28日(火)21時14分35秒
返信・引用
       「プリズム」   百田 尚樹著
   「家庭教師センターから参りました、梅田聡子と申します」私は深々と頭を下げた。

  「実は、村田卓也という人物も、宮本純也という人物も、実際には存在しない男なんです」「わかりやすく言いま
  しよう。岩本広志はカイリセイドウイツセイショウガイです」一瞬、頭の中で文字が浮かばなかった。
  「何とおっしゃいました?」「解離性同一性障害です」村田はゆっくりと言った。
  「岩本広志は幼少の頃から、その病気を患っていました。様々な人格が彼自身を乗っ取っているのです」
  「それって――」私は慎重に言った。「多重人格のことですか」「そうです」
  不思議な気持ちでいっぱいだった。広志の世界はいったいどんな世界なのだろう。おそらく彼の中にはいくつかの
  人格があるのだろう。

  別に恋しているわけでもないのに。そう考えて、本当かなと思った。自分はまったく恋していないのだろうかと
  自問した。うん、恋はしていない。でも――彼に大いに興味はある。それはそうだ。もし多重人格なら、一生に
  一度会えるかどうかわからないのだから。背後から静かな足音が聞えた。私は目を閉じて、誰の足音か聴き分け
  ようと思った。しかしそれは無理だった。足音はやがて止まった。   「梅田さん――」
  村田卓也の声だとわかった。振り返ると、はたして卓也が立っていた。彼はにっこりと笑った。

  「広志の父、重雄氏は広志の幼少期から子供時代にかけて、ひどい暴力をふるっています」

  「実は純也は頑強に統合を拒んでいる一人です。純也は広志を憎んでいます。これが問題をこじらせています」
  「卓也さんも統合されることを拒否しているのですか?」
  「いいえ、前にも言ったように、卓也はむしろ積極的に統合を進めようとしてくれています。私は最初、広志を
  卓也に統合してしまおうかとも考えました。なぜなら卓也はあなたもご存じのように完璧な男性だからです」
  進藤先生の言うことが正しければ、広志には今も五つの交代人格がある。彼自身も含めれば、その肉体の中には
  六人の男がいる。一日ずつ交代に使っても一週間に一日しか出られない。もしも誰かが長く占拠したら、その間
  は心のどこかに隠れていることになる。
  「卓也は広志が理想とする人格」、つまり彼は「作られた人間」なのだ。そんなことは頭ではわかっている。それ
  でも、卓也のことを思うと、胸の高まりを抑えられなかった。

  「さっきは好きでないみたいなことを言って、すみませんでした」卓也はずっと下を向いたまま言った。「本当は、
  広志と同じように、聡子さんが好きでした」・・・・・
  ああ――私、どうかしている。でも、いけないことをしているという意識はなかった。自分には夫がいるという自覚
  もどこかへ飛んでいた。・・・・・
  先生の表情はちょうどワイングラスに隠れて見えなかった。「さっき卓也さんは治療に必要だとおっしゃいましたね」
  「あくまで現時点においては、です。このまま卓也の存在が消えると、人格統合がなされないまま、純也と広志の
  対立が続きます」 「では、私は卓也さんと会った方がいいんですね」
  進藤先生の口元が少し笑ったような気がした。少し勢い込んで言ってしまったことが恥ずかしかった。
  はっきりと卓也に恋していると確信した。一時の気まぐれなんかじゃない。本気の恋だ。卓也がたとえ解離性同一性
  障害の男性であってもかまわない。この恋がどんな結果を迎えるのかも想像がつかない。二人は結婚することもでき
  ないだろう。いつか卓也は消えていくかもしれない。でも、その日が来るまで、卓也とは離れない。

  「このままでは、広志が危ない」卓也は苦しそうな顔で言った。その真剣な表情を見て、私は不安になった。
  「広志の感情をコントロールできるのはぼくしかいない」「それはどういうこと?」
  「村田卓也という人格を広志に返す時が来たようだ」瞬間、私の背筋に冷たいものが走った。
  「広志は長い間、解離性同一性障害で苦しんできた。いくつもの人格に体を奪われてきた彼が、ようやくにして自分
  を取り戻しつつあるんだ」静かな部屋にタイヤが軋(きし)むような音がした――卓也の嗚咽だった。
  彼の頬から涙が落ちるのが見えた。テーブルの上に涙のしずくがいくつもできた。どんな時でも感情を爆発させる
  ことのない彼が、まるで子供のように泣きじゃくっていた。卓也が本当に消えてしまうつもりだということがわか
  った。・・・・・
  卓也は天井を見上げていた目を下に降ろし、私を見た。その目は――卓也の目ではなかった。
  私は茫然として、卓也だった男――今は広志となった男の体を離した。

  先生は卓也と純也が広志の中に統合され、広志は一つの人格に統合されたと言った。

  「梅田さんは今も家庭教師を続けているんですか」不意に広志が訊いた。
  「いいえ。今はフルタイムで働いています。出版業界です。それと、今は津山聡子です。離婚して旧姓に戻りました」

  すごく不思議な感じがした。これが人格統合ということなのか。解離したすべての人格の記憶は一つに統合され、
  バラバラだったピースは一つの流れで再構成されたのだ。かってプリズムで分けられていた様々な色の光は、今、
  一つの光となった――。

http://   「死はこわくない」   立花 隆著

 

読書 あれこれ その237

 投稿者:蘇る青春  投稿日:2017年11月11日(土)16時17分51秒
返信・引用
         「東京難民」 福澤 徹三著
    大学を除籍になったのを皮切りに、次から次へ事態が悪化していく。自分だけが、なぜこんな目に遭わねばな
   らないのか。修は泣きたいような気持で、夜の街を走り続けた。
   そもそも、仕送りもせずに消えた両親が悪い。学費の滞納で、さっさと除籍にした大学が悪い。きちんとバイト代
   をくれなかった連中が悪い。すこし家賃が遅れただけで、家財道具をカタにとって部屋を追いだした東亜パレス
   が悪い。ひとことでいえば運が悪い。

   同じ大学生でも、光本真理はボランティアをしている。金にもならないのに他人の面倒をみるなど、かっての自分
   には想像もつかなかった。どうして真理はホームレスを助けようと思ったのか。テント村のみんなは純粋な好意
   と受けとっているようだが、ほんとうにそうなのか。
   「真理ちゃんは、どうしてボランティアをやってるの」真理は眼をしばたたいたが、まもなく微笑して、「楽しい
   からです」単純すぎる答えにとまどいつつ、でも、と言葉をかえした。
   「大学へいってるのに、たいへんじゃない。お金にならないし、ホームレスもいいひとばかりじゃないだろうし
   ――」「ええ。それでも楽しいです」「どういうところが?」「みなさんとお話しすることとか――」

   思いかえしてみると、大学を除籍になってから、さまざまな仕事をやってきた。ポスティング、テレアポ、ティッ
   シュ配り、治験のバイト、ホスト、日雇いの作業員。途中で逃げだしたがウリセンボーイもやったし、タコ部屋
   まがいの日雇いもした。
   住むところも転々と変わっている。マンションを追いだされて、はじめは雄介(修の同級生)の部屋に居候した。
   そこも居づらくなって、ネットカフェで寝泊まりするようになった。あの頃は新宿のネットカフェだった。
   そのあとは歌舞伎町のはずれにあったトワイライトの寮に、阿佐谷の鳴海建設の寮、蒲田のゲット、池袋の犬丸
   組、つまりタコ部屋だ。それから蒲田にもどって、テント生活になった。かいつまんで喋っているつもりだが、
   途中で熱を帯びてきて、話が長くなった。けれども、真理は熱心に耳を傾けていた。
   「――大変だったんですね。修さんにくらべたら、あたしなんか、なにも経験してません」
   「ほめられるようなことじゃないよ。いきあたりばったりで生きてきただけだから」
   「いきあたりばったりでも、それだけいろんな仕事ができるのはすごいですよ」「――ありがとう」

   「快楽を突きつめていけば、なんでも自分の思いどおりになる世界へたどり着く。その世界では、他人が思うが
   ままにあつかえる道具と化す。したがって軋轢(あつれき)こそないが、人情もなければ心もない。その結果、
   ひとは孤独になる」「そこまで極端に快楽を求めているひとはすくないでしょう」
   「すくなくはない。その証拠に、ひとは幸福を金であがなおうとする。金があれば幸福になれると信じている。
   だが金で買えるのは快楽であって、真の幸福ではない。快楽を幸福だとすれば、それを得られないと不幸になる。
   だから、いまの世の中は不幸な人間だらけだ」
   「じゃあ、真の幸福ってなんですか」「大いなるものを信じることだ」
   「大いなるもの?」「そうだ。神と呼んでもいい」

   「ほとぼりが冷めるまで、しばらく旅してきます」修はテントに入って、手早く荷物をまとめた。ひとりひとりに
   別れのあいさつをしたかったが、いつ警察がくるかわからない。
   「修、元気でやるんやで」
   「もどってきてや。ぜったいやで」
   「おまえなら、きっと難民を抜けだせる。いつか、おれたちに立派になった姿を見せてくれ」
   みんなの言葉に嗚咽がこみあげてきたが、湿っぽい顔は見せたくなかった。修は頭をさげて、「必ずここにもどっ
   てきます。いままで、ありがとうございました」
   真理はこわばった微笑を浮かべて、うなずいた。

http://   「死はこわくない」   立花 隆著

 

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